日時:令和5年7月31日(月)
場所:倉敷市大畠(おばたけ) 周辺の海岸
参加:岡山県立倉敷天城高等学校 理数科1年次生32名
講師:洲脇清 様(現地にお住まいの本校元教員)

【概 要】本年度も「夏の特別ラボ講座」の一環として「海岸研修」を実施しました。31日(月)に,午前中の「情報Ⅰ」の特別授業の後,午後1時に大畠(おばたけ)に向けて学校を出発しました。講師として,地元にお住まいで,小学生から年配の方までを対象とした「海岸の生物観察会」を実施している本校元教員の洲脇清様をお招きしました。

30分ほどで大畠の海岸に到着し,「児島地区漁村研修交流センター」での開校式と講話の後,海岸に生息する生物を探索しました。また,指標生物による水質の判定(広島大学が開発)を行いました。 今年は例年に比べて潮がよく引いていて,多くの生物を観察することができました。毎年敷地内を通らせていただいている有限会社下津井造船所様のご厚意に感謝申し上げます。

実習に先立ち「児島地区漁村研修交流センター」で講師から,戦前・戦中・戦後の児島・水島地区の海の環境の変化についての貴重な講義がありました。主な内容は次のとおりです。

「海岸の生物観察会」では,幅広い年齢層を対象としており,喜ばれています。小学生の反応は「カニ,エビ,フナムシなどがいて楽しい,面白い」とのことです。女性には貝殻や海藻を使ったアクセサリーの作成が人気だそうです。また,高齢者の方には,「美味しい,体によい」ワカメ,ヒジキ,テングサ,サザエ,アワビ,ウニなどが人気だそうです。残念なことに,今ではアワビは絶滅危惧種に指定されているそうです。

戦時中,水島には航空機の製作工場があり,空襲によって破壊されました。空襲の日には,水島の空が真っ赤に見えたそうです。戦後,港湾整備と企業誘致が進み,環境が大きく変化したとのことです。油くさいチヌ(黒鯛)や背骨の曲がったボラなどが出現したそうです。このころ,漁師さんたちは将来の漁業を断念し,サラリーマン志向になったり,養殖漁業や観光業(釣り船)など多角化を目指したりしたそうです。また,講師が中学生の時の優秀な生徒たちは,倉敷市内の工業高校へ進学し,水島にある企業のエンジニアになったそうです。

1974年には石油工場からの重油流出事故が発生し,岩場が真っ黒になったそうです。通生(かよう)の小学校に自衛隊が来て油の回収作業に当たったそうです。ワカメやノリなどの海産物がほとんど収穫なしとなりました。また,島嶼部のハマチの養殖場は全滅したそうです。沿岸部の貝類への影響(油臭)は長期にわたり,完全に収まる(砂を掘って油膜が浮かばなくなる)まで7~8年かかったそうです。

 瀬戸大橋の工事が始まるころには,環境アセスメントの実施により環境への負荷の少ない工法が取られました。講師ご自身,調査の依頼を受け,海に潜って橋が建設される予定の海域に生息する魚の調査をされたとのことです。日曜日になると海に潜り,橋のルートの海域を1m四方に区切って生物をくまなく調べたそうです。イカナゴなど特定種類の漁獲量が減少しているそうです。

 海ゴミ問題として,16年前に,環境ホルモン(船底の塗料に含まれるトリブチルスズ)の影響でイボニシのオスがメス化し,個体数が激減するという問題がこの海域に発生しました。現在はこの塗料は使われていなく,回復しているようです。「環境ホルモン」という言葉は,この現象が基になって使われ始めたとのことです。最近では,マイクロプラスチック(ビニル袋やペットボトルなどが波浪や紫外線により5mm以下に細片化されたもの)の問題も発生しています。食物連鎖により,高次消費者の体内に多く入ってしまうことが心配です。

今年は例年になく,潮がよく引いていて多くの生物を観察することができました。
大小様々なヒトデや貝など,多くの生物を観察しました。
カメノテです。肝臓によく効くそうです。昔は薬屋さんがよく取りに来ていたとのことです。味噌汁に入れると美味しいとのことです。
実習終了後,交流センターの玄関前で生徒代表がお礼の言葉を述べました。一連の研修を通して海の環境保全の大切さと,このすばらしい環境を次世代に伝えることの大切さを実感した1日でした。